「過冷却」
水溶液(水)が凝固点(0℃)以下に冷却されても固体(氷)化せずに、液体(水)状態を維持する現象。
その状態で水溶液(水)に刺激を与えると、その部分から一気に固体(氷)化する。
例年、猛暑日が続くこの時期。
気づいたら手にしている、キンキンに冷えた”氷”。
口いっぱいに頬張ると、溶けた冷水が身体中を駆け巡る感覚がたまらない。
氷を頬張る行為は、
ヒーロー戦隊で言うと、必殺技を発動する前のエネルギーチャージの儀式といったところ。
猛暑と戦うのに、一役買っているのは間違いない。
食べ過ぎにはご注意を
ただ、必殺技にも回数制限があるように、常時となると話は変わる。
氷食症という、無性に氷が食べたくなる病気かもしれない。
よく氷を食べる人は、(鉄欠乏性)貧血の疑いをかけられることがある。
一度は耳にしたことがあるだろう。
実際に、貧血の患者さんを調べると傾向としてはあるようで、動物も同じ傾向を示すことがわかっている。
[STEPHEN C. WOODS AND RICHARD S. WEISINGER, Pagophagia in the albino rat, Science Vol169 pp.1334-1336, 1970]
設定としては、正常ラットと貧血ラットが、水分補給で”水”と”氷”のどちらを選択するかを観察した実験。
・正常ラットは、水分の45%を”氷”から摂取
・貧血ラットは、水分の96%を”氷”から摂取
(両者の水分摂取量に有意差なし)
・貧血ラットは、氷をなめるよりもかじる傾向
(貧血改善に伴い、この傾向も軽減)
因果関係はありそうだが、(私が調査した限りでは)科学的な証明には至っていない。
身近な氷食症者
うちの息子もその傾向がある。
離乳食を離れた頃から、氷にハマっている。
飲食店に着くなり、
氷・氷・氷
と、ひたすらねだる。
料理を待つ手持ち無沙汰な時間も、”氷”があれば、エンターテインメントな時間へと変わる。
かき混ぜたり、容器に移し替えたり、なめたり、噛んだり、握ったりと溶けるまでの刹那を楽しむ。
その手は、親の氷へも伸び、テーブル上の”氷”を食べ尽くす。
騒ぐ息子を取り押さえるのに比べたら、”氷”の抜かれた”ぬるい水”を飲むのは容易い。
さらに、氷は無限に食べ続けても0円。
親の懐が寒いのを配慮しての”氷”チョイスならできた子だ。
そんな訳で、大人はゆっくりと食事を楽しめる。
そして、キンキンになって、動きにキレがなくなった大きな氷をおんぶして帰る。
刺激は変化のきっかけ
先の例では、「氷しか食べないなら、2人分の料理をデリバリーすれば効率的では?」という意見もあるだろう。
確かに、その方が効率的。
ただ、効率もさることながら、一見、無駄なことや回り道に見えることも人生にとっては必要な刺激だったりする。
もちろん、全てが良い刺激とはならないが、触れることで、経験値はたまり世界は広がる。
息子の食事中の氷遊びも例外ではなく、
息を吹きかければ氷は早く溶ける:熱平衡
指に氷がくっつく:投錨効果
なんで、なんで〜
を繰り返しながら、化学を学んでいる。
見方を変えれば、”食事の時間も惜しんで勉強している”勤勉な少年。
刺激を与えれば、冷水が氷へと変化するように、彩のない日常に花を添えるのは、ほんの少しの遠回りかもしれない。