どのように働きかければ、部下に気持ちよく仕事を進めてもらえるか?
悩みの種ではありながらも、日々の業務に忙殺される中で優先順位は低くなっていないだろうか?
行動経済学の権威であるダン・アリエリー教授のユニークな実験から、行動の動機付けについて、解決の糸口を考えていく。
レゴブロックの組立て
【実験条件】
- レゴブロックで40パーツから成るロボットを組立てる。
- 1体を組立てる毎に、報酬が支払われる。(作業時間は約1体/10分)
- 1体を組立てる毎に、もう1体組み立てるかを問われ、「やめる」と言うまで継続。
- 1体当たりの報酬は、組立て数に応じて減額されていく。
そして、”完成品の扱い”の違いを検証するために、参加者は2つのグループに分けられる。このことは、予め参加者に告げられている。
※1 神の怒りをかったシーシュポスは、山頂まで大岩を運ぶことを命じられ、運び上げては、神によって麓まで転がされるのを延々と繰り返す罰を受けたという神話 ⇒ 努力が無意味で徒労に終わってしまうこと。
さて、結果はどうだっただろうか?
【結果】
当然ながら「有意義条件」の方が、継続への動機付けが強かった。
特筆すべきは、「レゴ愛好度と製作数」の関係。
一般的に、レゴ愛好度が高いほど、ロボット製作数は増加すると考えられる。「有意義条件」ではその傾向が見られた。しかしながら、シーシュポス条件では、その傾向が一切見られなかった。当然、実験で組立てたロボットがいつか壊されることは、参加者の誰もが認識している。博物館に飾られて一生そのままとは誰も思っていないだろう。それでも、目の前で完成品をバラバラにする行為は、好きという気持ちさえも失わせるということだ。
また、「有意義条件」と「シーシュポス条件」のどちらがロボットの製作数が多いかを事前に予想してもらった。「有意義条件」の方が”平均1体多い”という事前の予想に対して、実際は”平均3.4体”も多かった。つまり、条件の違いが意欲に影響を及ぼすということはわかっていても、その影響力を過小評価する傾向があるということだ。
さて、続いて別の実験を紹介しよう。より働く環境に近づけた実験だ。
ペア文字探し
【実験条件】
- アルファベットがランダムに羅列された文字列から、連続する「s」に○を付ける。
- 連続する「s」を10箇所見つけたら報酬が支払われる。
- 1枚終わる毎に、もう1枚やるかを問われ、「やめる」と言うまで継続。
- 1枚当たりの報酬は、枚数に応じて減額されていく。
そして、”完成品の扱い”の違いを検証するために、参加者は3つのグループに分けられる。このことは、予め参加者に告げられている。
さて、結果はどうだっただろうか?
【結果】
- 「認知条件」が最も継続への動機付けが強い。
- 「チェックせずの条件」は楽をして報酬を得ることも出来たが、その権利を早々に放棄。
まとめ
- 仕事から意味を奪うのは驚くほど簡単。
- あなたが上司で、何とかして部下のやる気をなくしたいのなら、部下の見ている目の前で、彼らの労作を粉砕すればよい。
- もう少しさりげなくやるなら、部下を無視したり、頑張っている様子に気づかないふりをするだけでも十分効果はある。
- 逆に、同僚や部下のやる気を高めたいのなら、彼らに気を配り、頑張りや骨折りの成果に関心を払えばよい。
- 楽して稼げる条件でも、その権利を早々に放棄したように、人間のモチベーションは複雑で、「お金のために働く」といった、短絡的な関係に集約はしない。
- 仕事の意味は、労働に大きく影響を及ぼすが、与えるよりも奪う方が容易いため、常にご自身の行動を振り返り、時には相手とのコミュニケーションの中で打開策を模索していく姿勢が重要となる。
これを機に、部下と真剣に向き合ってみてはいかがだろうか?
【参考文献】
・Ariely,Dan, Emir Kamenica and Drazen Prelec, 2008, Man’s Search for Meaning: The Case of Legos, Journal of Economic Behavior and Organization, vol.67, pp.671-677.
・『不合理だからうまくいく』 ダン・アリエリー(2014)