何か質問を思い浮かべてください。と聞くと、真っ先に思い浮かぶのが、「わからないことがあったら質問してください。」というフレーズではないだろうか。
これは、自分のための質問。自分の疑問を解消するための質問とも言える。
実は質問にはもう一つある。
それは、相手のための質問。
相手の思考の枠を広げて、行動を促すための質問とも言える。
人との関わりにおいては、後者がメインで、今回の主役。
ここからは、この質問スキルについて考えていきましょう。
質問が行動を促すプロセス
まず、なぜ質問が相手の行動を促すかについて解説していきます。
この質問を受けて、どのようなことを考えましたか?
答えを考え始めたり、その答えを知りたくなりませんか?
質問を受けることで、これまでに考えたことがないことを考え始めることもあり、好奇心がそそられ、思考の枠を広げるという効果があります。
そして、考えた結果、何か閃けば、それを自分で確かめたくなるものです。
質問に対して、思考して回答をする過程において、自主的な行動が生まれるということです。
素振り100回は罰?
テニスを例にして考えていきます。
練習で、コーチから「素振り100回しろ!」と言われたら、どんな気持ちになりますか?
罰のような、「やりたくない…」というネガティブな気持ちが全面に出るのではないでしょうか。
一方、コーチから「県大会で優勝するために、必要なことは何だと思う?」と問いかけられたら、どうでしょうか?
「怪我をしないように、ストレッチや走り込みはした方がいいな。」とか、「正しいフォームを定着させて、どんなボールでも返球出来るように、素振りは必要だよな。」と、同じ素振りだとしても自分の口から自然と出てくると思います。
質問をされることで、「どうしたらいいか?」を自分の頭で考えるので、「やりたい」とか「やらなきゃいけない」というように、前向きに捉え易くなります。
このように、相手にやって欲しいことを、自身で思い付くように導くことで、自発的な行動やチャレンジを促すことが可能になります。これぞ、Win-Winの関係です。
ダメな質問例と改善例
以下の会話を部下の気持ちになって、ご覧ください。
(部下)・・・
「間に合わない」という回答は許されない雰囲気の質問です。おそらく、上司もプロジェクトを間に合わせたい一心で焦っているのでしょう。しかしながら、これでは部下も萎縮してしまい、建設的な議論にはなりません。
それでは、先ほどの質問をこのように変えてみてはいかがでしょうか?
(部下)現時点では、順調ですが、先のことでご相談したいことが…
先ほどと比べて、相談をし易い雰囲気になったのではないでしょうか。
続いて、2つ目の例です。
(上司)え、ちょっと今までいったい何をしていたの?
既に本人が非を認めているにも関わらず、さらに責め立てられると、頭の中は真っ白になってしまいます。ここでは、“どう切り返していくか”を上司と部下が一丸となって考えていく必要がありますが、これでは建設的な会話にすらなりません。
それでは、先の質問をこのように変えてみてはいかがでしょうか?
(上司)なるほど… それで、これからどう対応しようと考えている?
先ほどと比べてどうですか?
部下と上司の向かう方向性が一致し、次のアクションについて相談する流れになりました。
このように、質問をほんの少し工夫するだけで、相手の受け止め方がこんなにも変わるということを感じてもらえたのではないでしょうか。
質問の型:オープン/クローズド・クエスチョン
次に、効果的な質問をするための型について学んでいきます。
大きく分けて、オープン・クエスチョンとクローズド・クエスチョンの2つの型があります。
オープン・クエスチョン
一般的に言う“5W1H”の疑問詞による質問
YesかNoか?AかBか?というように”用意された選択肢”による質問
まず最初に、クローズド・クエスチョンの例をご覧下さい。
(Bさん)「はい、食べました!」
一方で、同じことをオープン・クエスチョンで質問してみましょう。
(Bさん)「バナナと牛乳をいただきました!」
(Aさん)「そうですか、なぜその組み合わせにしたのですか?」
(Bさん)「寝坊をしてしまって、短時間で済ませられるものを選びました!」
(Aさん)「そうでしたか。」
このように、オープン・クエスチョンでは、相手のイメージを膨らませて、考えを引き出すという特徴があります。
一方、クローズド・クエスチョンは、Yes/Noを明確に問うので、事実/意思確認に使います。しかしながら、相手の自発性を阻むリスクもありますので、多様は禁物です。
オープン・クエスチョンの流れ
ここからは、オープン・クエスチョンの使い方を解説していきます。
まずは、5W1Hの役割を見ていきます。
- 思考の枠を広げる質問:What / Why / Who
- 行動や挑戦を促す質問:When / Where / How
全体の流れとしては、前半に思考の枠を広げる質問をしていきます。そして、相手に十分な気づきが得られたタイミングで、後半に行動や挑戦を促す質問をしていきます。
以降で、それぞれの疑問詞について、具体的な役割を確認していきましょう。
What:悩みや原因を引き出す。
まず始めに、悩みや原因を引き出す問いが有効となります。
「○○について一番の気がかりは、何ですか?」
また、困っていたり、慌てていると、問題を漠然と捉えてしまう傾向があり、悩みの原因にまで考えが及んでいないこともあります。そのような時には、具体化を促していきましょう。
「何があれば、状況は好転しますか?」
こういった質問で、相手の真の悩みに迫り、必要なものを具体的に捉えていきます。
Why:行動の背景を知る。
問題が起こると、行動の良し悪しだけに目が行きがちで、その行動の背景にある考えや感情に目が行き難くなります。
しかしながら、他人からは一見変に思える行動でも、本人なりの考えや妥当性がある場合も多く、これを知らずして、一方的に指導をしても、相手と心を通わせることはできません。
そこで、相手の行動の背景にある考えを引き出す問いが有効になります。
「そう考えたのは、なぜでしょうか?」
ただ、注意していただきたいのは、なぜなぜ?攻撃をしてしまうと、相手に切迫感を与えてしまうため、傾聴を十分にしながら、効果的に”なぜ”を使いましょう。
▼傾聴スキルについては以下をご参照ください▼
Who:周囲の視点を入れる。
当事者は、どうしても自分だけの視点で考えがちになるものです。そのため、視野を広げるための質問をしていきます。
「この件で、お手本になりそうな人は誰ですか?」
「お客様は、どう感じると思いますか?」
「競合他社からは、どう見えますか?」
○○さんの部分は、その人の抱えているテーマに熟達している人や、その人とは違うアプローチをする人、違う強みを持つ人にすると効果的です。そして、重要とは認識しつつも、常日頃からお客様や競合他社の目線に立つのは、なかなか難しいものです。こういう場面で問いかけてみることで、新たな気づきが生まれることがあります。
また、「自分だけでどうにかしないといけない」と思ってしまう人が多く、助けが必要な場面でも、自分から手を挙げられる人は少ないです。そこで、必要な協力や支援を引き出す問いも有効です。
「私や誰かにお願いしたいことはありますか?」
Where/How/When:チャレンジや行動を促す。
ここまでの質問で、気づきが生まれます。続いて、行動を促していきます。
まずは、Whereを使って、向かう方向性を問いかけます。
「どこへ向かいたいですか?」
向かう方向が大まかに見えてきたら、具体的な行動を描くHowの出番です。
「この気づきを今後にどう活かしますか?」
行動が描けたら、いよいよ最後、計画を立てるWhenの出番です。
「いつまでに実現しますか?」
これで、行動を起こす下準備は完了です。
これらの問いは、相手が向かいたい方向や方法論がある程度見えた、もしくは見えてきた時に投げかけると、シンプルながらパワフルな問いになります。
練習問題
では、ここまでの内容の復習を兼ねて、相手のためになる質問を考える練習をしてみましょう。
これを相手のための質問に変えるとどうなるでしょうか?
「これを達成するために必要なことは、何だろう?」
「これをやる上で障害になっていることは、何だろう?」
これを相手のための質問に変えるとどうなるでしょうか?
「最近の状況を教えてもらえる?」
「何か手伝えることはある?」
質問の上級スキル
より効果を高めるためのポイントを3つ紹介します。
質問は短く、1回に1つ
- 一時記憶できる量には限界がある。
長々と複数の質問をされてしまうと、情報の整理が追いつかず、回答者を混乱させてしまいます。また、長い質問の傾向として、「○○だと思いますが、どう思いますか?」というように、疑問符を付けただけで、質問ではなく、意見になっている問いが多いです。質問が長い傾向にある方は注意すると共に、相手のための質問だということを忘れないでください。
振り返りを促す
- 情報を段階的に整理する。
例えば、「ここまで話してみて、気づいたことは何でしょう?」という問いかけです。人は話す過程において、思考が徐々に整理されていきます。そのため、要所要所で振り返りを実施することで、着実に答えに近づくことができます。
エピソードを紐解く
- 抽象化と具体化により本質を見定める。
全ての事象は繋がっています。そのため、一つのエピソードから、抽象化・具体化を通して、その人の本質となる考えを見つけていきます。ここでは、チャンク(Chunk):“塊”という概念が有効です。話の抽象度を上げることをチャンクアップ、具体化することをチャンクダウンと言います。
例えば、「お客様第一」という言葉をとっても、性能を高めることや、コストを下げることなど人によってイメージすることは様々です。そのため、「お客様第一」という言葉だけでは相手の真意はわかりません。
そこで、チャンクダウンを使います。「あなたが考えるお客様第一とは、具体的にどのような状態ですか?」と聞いてみると、具体化を促すことが出来ます。
逆に、この場面で、チャンクアップを使って、「お客様第一が重要だと思ったのはなぜですか?」と聞いてみると、その人の重要だと思う価値観に触れることもできます。
この抽象化と具体化という概念はとても重要なので、意識して使ってみてください。
思考の枠を外す
誰しも考え方には癖があります。ポジティブやネガティブというのもその一種でしょう。それがあなたの思考の枠、つまり足枷になっています。
やっかいなことに、本人では自覚が難しく、自力で外すことは困難です。しかしながら、質問を通して外すことが出来ます。
その方法の一つが、「If(もし~なら)」を使う問いかけです。
まずは、理想とする状態を描きます。
「もし、時間や予算の制約がないとしたら、どんなことが思いつきますか?」
そして、理想に対して、ブレーキとなっている原因を割り出していきます。
先ほどのブレーキの原因は、過去の体験による可能性が高く、現在やこれからは、必ずしもそうではないという気づきを促していきます。
会話の中で使い方を確認してみましょう。
(上司)「もし、このプロジェクトが破綻するとしたら、どんな原因が考えられますか?」
(部下)「周囲の協力を得られなかった時だと思います。」
(上司)「これまでのどんな経験からそう感じましたか?」
(部下)「前のプロジェクトで上手くいかなかった時がそうでした。」
(上司)「これからも周囲の協力は得られないでしょうか?」
(部下)「そうとは限りません。自分がどう動くか次第かと思います。」
(上司)「どのように動くと良さそうでしょうか?」
(部下)「普段から情報共有をしておくことです。そうすれば、いざと言う時に助けてもらえると思います。」
以上が質問スキルになります。
あとは実践を重ねて、状況に合わせて使いこなせるようにするだけです。
「答えは相手の中にある」
上司は、相手の気づきと行動を促す肩押し役に過ぎないということを忘れずに。