「他店より1円でも高かったら、その場で値下げします!」というお馴染みの宣言文。
この宣言を見て、あなたはどのような印象を持ちますか?
「消費者思いのいいお店」、「安売り競争をしているお店」という印象があります!
このような答えが浮かんだ方は、お店側の仕掛けた罠にハマっているかもしれません。
果たして、この宣言の”本当の意味”は何なのか?
結論:価格競争を避けるため!
まずは結論から!
本当の意味:「お互いに値下げしないでいきましょう!」というライバル店へのメッセージ
え…そんな…。
消費者へ向けたメッセージですらないなんて…
おそらく裏切られた気持ちになった方が多いのではないでしょうか?
そのカラクリを思考実験により解き明かしていこう。
そもそも、価格競争はなぜ起こる?
ここは、12人が生活するとある島。
そのうちの2人は、お店(A店、B店)を経営しています。
つまり、消費者は10人の設定です。
そしてA店、B店で全く同じ商品を売るケースを考えます。
<前提条件>
- 1日1人1つの商品を購入
(10人なので1日に計10個購入) - 価格差がある場合、安い店で商品を購入
(10人が同じ店で計10個購入) - 価格差がない場合、購入する人数は各店等しくなる
(5人がA店、5人がB店で購入) - 商品の利益が出る限界ラインは1個30円
(30円未満の価格設定は考えない)
補足:その他の要素(仕入れ値や人件費の違いなど)は無視します。
まずは、初日に各店が以下のような値付けをした場合の各店の売上げを見ていきます。
A店がB店より10円安いため、10人全員がA店で購入します。
A店の一人勝ちで、売上げは400円になります。(B店は売上げ0円)
すると、次の日にB店はどうするでしょうか?
A店に負けじと値付けを下げて対抗します。
これで、消費者は、B店に乗り換えます。
一人勝ちという状況は先ほどと同じですが、値付けを下げたために売上げは減っています。
そして、もうお気づきかと思いますが、ここからは値下げ競争が始まります。
その次の日は、A店が値付けを下げて対抗します。
最終的には、限界価格の30円で両店は販売せざるを得ない状況に陥ります。
これが、価格が下がるメカニズムです。
つまり、価格競争によりお互いに売上が減るということですね!
そういうことだね!
では、両店がWin-Winになるためには、どうすれば良かったのかわかる?
値下げ競争になる前に、お互いに同じ値付けにしておくことですか?
そうだね!
私でもわかることなのに、どうしてこうならないのかな?
ここには心理なハードルが関係しているんだ!
自己の利益の最大化を狙ってしまう心理
誰もが自己の利益を最大化して、一人勝ちをしたいと考えるものです。
まずは、A店が50円という値付けをした場合のB店としての戦略を考えていきます。
A店と同じ50円で消費者を半分にするよりは、価格を30円に下げて一人勝ちを狙う方が、今回のケースでは売上げが大きくなります。
これは、B店が最初に値付けをする場合も同様です。
このように、一人勝ちを狙った結果として、低い値付けが起こります。
ここに、”競争”という要素が入った結末が、両店が限界価格を付けざるを得ない状況を生み出しています。これは、両店にとっては最悪のシナリオです。
これは「囚人のジレンマ」と呼ばれています。
「囚人のジレンマ」
Wikipedia
お互い協力する方が協力しないよりもよい結果になることが分かっていても、協力しない者が利益を得る状況では互いに協力しなくなる、というジレンマである。
この実験では、両店が協力をして50円という値付けをすれば、売上げが250円になっていました。しかしながら、自己の利益を求めた結果、価格競争に陥ってしまい、売上げが150円に減ってしまいました。
つくづく、人間は利己的な生き物だということを物語っていますね…
示し合わせた価格にできない法的な壁
自己の利益を追い求めた末に、価格競争が起こることがわかった所で、他に良い方法はあるかな?
こっそり価格を相談してみるというのはどうかな?
いい考えだ!と言いたい所だけど、残念ながら不正解!
「談合」
国や地方自治体の公共事業などの入札の際に,入札業者同士で事前に話し合って落札させたい業者を決め,その業者が落札できるように入札内容を調整すること。
コトバンク
価格競争を避けるために、予め話し合いなどで販売価格を決めることは、独占禁止法で禁止されているんだ。
危ない所だった…。この戦略は使えないね!
そうなると、相談はできないということだね!
実は、談合を回避するため戦略だった…
それでは、どうやって価格競争を回避しているのか?
その答えが、「他店より1円でも高かったら、その場で値下げします。」という宣言なんだ!
ついに、ここで登場ですか!
そもそも、値下げができるということは、限界価格ではありません。他店がこの宣言を打ち出した場合に、自分ならどのような戦略を打ち出すかを考えて欲しい。
ある程度高い価格設定にするね。
先ほどの思考実験で言うと、A店が50円であれば、B店も50円にするだろう。そして、消費者から交渉された場合のみ、値引きをする。その方が両店にとって売上げが大きくなるからだ。
交渉ありきの価格設定ということね。
そういうこと。しかしながら、実際に、家電量販店でアルバイトをしている友人に話しを聞くと、比較して価格交渉をする人は少数だと言います。
なぜだと思う?
1円でも…って言うくらいだから、そもそも「消費者のために、限界価格を提示している」と思い込んでいるためね。
そういうこと!
「交渉しなくても、そもそも安い」と思っている人が多いということだね。
実際はその逆なのに…。
今度からは、積極的に交渉します!
これが、同業者同士で不毛な値下げ競争に持ち込まないための戦略です。
これを「暗黙の共謀」といいます。
この宣言を出すことで、ひそかに共謀していたということです。
世の中、恐いですね…
価格競争の消費者へのメリット
価格面では消費者にとってデメリットなのはわかりました。
逆にメリットはないのでしょうか?
ちゃんとメリットもあります!
製品差別化といって、店側は、商品や店舗のサービスに付加価値を付けることで、差別化して消費者を獲得するという戦略をとっています。
例えば、iPhoneもデバイス自体はどこで購入しても同じですが、購入者が複数の通信キャリアに分かれているのもサービスによる差別化が理由の一つです。
つまり、この競争があるおかけで、三者三様のサービスが生まれます。
それにより、日々の私たちの生活をより豊かにしてくれていると考えることもできます。
他店以上に値下げしてもらう方法
限界価格ではないのだから、遠慮せずに値下げ交渉をしていくしかない。
要は、他店と比較して、高い価格の店舗の方に交渉するということですね?
そうだね!
交渉すると最安値になるので、その価格を他店に持っていき、再度交渉するのも有効だよ。
まとめ
以上をまとめると、こうなる。
- 全く同じ商品を販売していると、値下げ競争でしか消費者を獲得する手段がない。
- お店は、値下げ競争を避けるために、暗に「値下げしません」という宣言をしている。
- 価格競争により三者三様のサービスが生み出される。
- 消費者は、値下げ前提の値段であることを認識し、遠慮せずに交渉をする。
最後まで読んでいただきありがとうございました。